まきび病院は1981年の開設以来、精神医療を当たり前の医療の姿に改革することを目指してきました。それまでには幾多の戦いがありましたが、病む人を支えるエネルギーにあふれた仲間たちとともに歩んできたからこそ、現在も、そしてこれからも変わらない思いと形で、安心できる医療を提供し続けることができるのです。
「まきび病院はなぜ、30年以上もの間、精神医療の理想形を提供し続けることができるのか」と問われれば、私が1970年代の精神医療の現場を目の当たりにした経験があるからでしょう。金網や鉄格子に囲まれた病棟。医師が直接病棟に入ることは稀で、患者さんの話を聞くこともせず、病状をカルテに少し記しただけで、薬を簡単に増やす。見舞いや家族による看護も許されず、生活規制が厳しい。何か事が起こっても、職員同士が話し合うこともない。職員が仕事に満足していないから、短期間で次々に辞めていく…。患者さんが迫害され、社会と隔絶した生活を強いられるという閉鎖的な体制が、当時の精神医療の世界でした。
精神的に悩み、苦しんでいる人といえども、普通の人と何ら変わりありません。周囲から、変わった人と見られていても、悩み・苦しみがあるなしに関係なく、まずは人間として関わるのが基本姿勢であるべきです。その人たちに対して、人権を無視した医療行為を行っていることに、哀しみや怒りを覚えました。そこから、刑務所をモデルにしたような「収容の場」を「治療の場」に変えていこうと、「精神医療現場の改革」をテーマに病院の改革から挑戦し、その延長線上で地域医療活動を行いました。
まずは、患者さんとじっくり話し合うことから始め、入院を前提とせず、精神衛生センターや保健所、地域診療所を拠点に、訪問や往診など、さまざまな実践を行ったわけです。患者さんを地域で支えるという姿勢で、精神医療の現場を変えようとしている人や、当時の精神医療に対して問題意識を持つさまざまな人たちとのつながりができたことも、私にとっては大きな力となりました。
そして、患者さんの社会復帰のための診療所として、岡山市に喫茶店『ラナ』をつくりました。たまり場と無料の夜間診療所の役割を担い、電話相談も引き受けました。しかし、満足な医療体制を組み立てることができなかったこともあり、「誰もが安心して寝泊まりできる宿屋」をイメージして創設したのが、『まきび病院』です。当時、登校拒否の子どもが増えているという社会問題を受け、思春期の子どもたちも安心して利用できる診療の場をつくりたいとも思っていました。
縁あって、真備町箭田に土地を得ることができました。その後、地域の家庭へ一軒一軒、私たちの意志や趣旨を説明して回り、みなさんからの温かいご支援をいただいたことにより、開院を迎えることができました。
創成期から「24時間全開放病棟」を実現。「閉鎖病棟を前提としない開放空間」を療養の場の基本とし続けてきました。また、患者さんと医療従事者の関係は水平関係を目指してきました。医師や看護師、薬剤師のほか、早くからソーシャルワーカーや心理療法士も採用し、皆、患者さんや家族と一緒に考え、「寄り添い、見守る」看護者の役割も担ってきたのです。そして、外に対してはゆっくり広がっていこう。患者さんや家族が迫害される時は、我々職員もともに戦うという姿勢を明確にしてきました。こういったことを30年以上に渡って大切にし続けてきましたが、それは自然にできていったものではなく、意識的に取り組み、定着させたものなのです。
これまでも、まきび病院の体制を少しでも真似をしようと全国からたくさんの人が見学に来られていますが、「ここまではできない」とおっしゃっていただけることが、まきび病院への最高の評価だと受け止めています。
現在の精神医療は、国家が独特な偏見と管理体制を強化し、効率化を図り、多くの医療従事者がそれを促進することによって、金儲け医療になってしまっているのではないかと私は危惧しています。また、医療側と精神医療を利用する家族、そして地域で患者さんを支えるという試みを行う人が以前より少なくなってきたとも感じています。
病む人には、薬に頼るだけではなく、その人のことを信頼し、寄り添い、一緒に行動したり、ゆっくりと見守っていくという社会的な風土が大切なのです。その人にとって「どうなっていきたいか」ということが第一。私たちはそれに近づいていく手助けをしているだけに過ぎません。これからも変わらぬ思いと形で、当たり前の医療を提供し続けてまいります。
医療法人 社団造山会 まきび病院 院長
人間は、悩み、苦しみ、無理をして生きている。
そして、病むこともある。
病んだとき、その人にとっての“当たり前”の医療が
提供されることが望ましい。
私たちはかなり古くさい。
その人のもっている自然治癒力を
せめて阻害しない援助を、
医療者として果たしたい。
また、その人にとっての“当たり前”の医療を
つくっていく作業は、
病む人、病む人を支えている方々、
医療者の合作でありたい―と思いつづけている。
ごく“当たり前”の原則を守りながら、
医療者としての「ぶん」をわきまえて仕事をしていく。
それが、わが「まきび病院」の気風である。
一つ, 地域の保健、予防活動とつながる診療
一つ, 身体と心と環境を総合的にみる診療
一つ, 子どもの発達を保証する診療
1981年6月 | 開院 |
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1984年1月 | 医療法人社団造山会 設立 |
1986年6月 | 『当たり前の医療』を求めてを発刊 家族会(あおたけの会) 発足 |
1989年8月 | 別館 竣工式 |
9月 | C病棟 開設 |
1990年3月 | 作業療法 認可 |
6月 | D病棟 開設 |
1999年7月 | デイケア 認可 |
2012年5月 | 訪問看護部 開設 |
法人名 | 医療法人社団造山会 |
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所在地 | 〒710-1301 岡山県倉敷市真備町箭田2387 |
電話・FAX | 電話 086-698-6511 FAX 086-698-5360 |
院長・副院長 | 院長 一色 隆夫 副院長 佐野 晋 |
開設年月日 | 1981年(昭和56年)6月1日 |
診療科目 | 精神科・心療内科・内科・児童思春期相談・精神保健相談 |
病床数 | 145床(精神科・24時間全開放病棟) |
施設基準 | 【基本診療料】 ・精神病棟入院基本料(15:1) ・看護配置加算 ・看護補助加算(1) ・医療安全対策加算(2) ・患者サポート体制充実加算 ・診療録管理体制加算(2) 【入院時食事療養費】 ・入院時食事療養(1) 【特掲診療料】 ・精神科作業療法 ・精神科デイ・ケア(大規模なもの) ・薬剤管理指導料 ・医療保護入院等診療料 |
敷地面積 | 9,413平方メートル |
建物面積 | 3,883平方メートル |